第二十話 「西日の移ろい」
2026/08/14
上杉工業の社長、上杉和夫は、工場のシャッターを締めようとして、改めて自分の工場を眺めた。ちょうど夕日が差し込み、小さい工場全体を映し出してくれた。
「社長、毎度っ!また、来ますね!
「おうっ!」
材料屋の武が、大きな声で、トラックに乗り込んだ。
「もう少し早い時間に来てくれよ。みんな五時には上がっちゃうからな」
「社長の会社は、いつも早く上がれて良いっすね」
武は、窓から顔を出して、笑っている。
上杉は苦い顔をしながら、
「ダメなんだよな、ほんとはそれじゃ」
「時代っすよ。時代。変わらないと」
「変われって言っても、俺も七十をとっくに過ぎたからなー。」
「えー、ほんとっすか?見えませんよ、社長若いっすね!」
「じゃあ、武・・・・・・何歳にみえるんだよ?」
「・・・・・・いやー、どっからどう見ても、六十九っすよ。」
「なんだそりゃ」
「冗談っすよ。ジョウダン!」
「まあ、しかし、良い方に変わってくれるんなら、大歓迎だけどな」
「他の会社の社長たちも、みんな同じこと言いますよ」
「・・・・・・そうだろうなぁ」
武も、うちが最後の荷下ろしなのだろう。じゃあ、と言うとあっという間に砂埃をあげながら、角を曲がって行った。
上杉はタバコに火を付け、大きく煙を吐いた。夕日に赤く染まった古い機械たちが、その向こうに霞んだ。
(休む暇なく機械の設備をしてきたつもりだったが・・・・・・、こうして眺めると、つくづく町工場だな・・・・・・)
狭い工場内に、ひしめくように置かれた機械たち・・・・・・。
(お客も変わったな。昔は、良く喧嘩したもんだった。黒鉄さんとこも・・・・・・あそことも、ずいぶんもめたっけ・・・・・・。
もちろん、喧嘩すれば、仕事している訳じゃないが、それにしても、よくもめたよ。
しかし・・・・・・、懐かしいはなしでも、ないな・・・・・・。)
くわえタバコでシャッターに手を伸ばしたら、腰に軽い痛みが走った。
「いたたたた・・・・・・。」
(無理をしては、いかんな)
シャッターを引っ掛ける棒を探した。
(年を取ったら子に従えって言うが・・・・・・、跡継ぎのいない会社は、何に従うんだろうな)
西日は、早くもさっきより傾いている。
(秋の空は、なんとやら・・・・・・か)
上杉は、シャッターを締めながら、空に向かってゆっくり煙を吐いた。
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