第二十一話 「解せない午後」(その一)
2026/08/15
三時休憩終了のチャイムが鳴り終えた。営業部の新人杉崎夏海は、それとほぼ同時に、汗を拭きながら帰社した。
「ただ今帰りました。」
「おつかれさん。」
営業部長の小田代が太った身体を椅子に預けて、パソコンを見ている。
「中涼しいーですねぇ。」
「うむ。でも・・・・・・杉崎さんは、夏は強いんじゃないか?」
部長は、身体を起こすと、忙しそうにうちわを動かしながら言った。
「・・・・・・とりあえず聞きますが、なんでそう思うんですか?」
「いや、名前がね・・・・・・名前に夏っぽいのが二文字も入っているから、そうなんじゃないか・・・・・・と」
「それは、部長。まったくの誤解です。そもそも私が付けた名前じゃないんで、夏はあまり好きではありません。」
「そうか。まあ、そりゃそうだな。すまんすまん、この暑いのに。つまらない冗談でした。」
その時、ふいに電話がなった。
「黒鉄製作所、営業部です。」
部長は受話器を取ると、二、三言話した後、
「杉崎さん、上杉工業さんの社長さんから。」
夏海は、少し嫌な予感がしながら、受話器をとった。
「もしもし、代りました杉崎です。」
「ああ、杉崎さん?上杉工業です。すまないけど、今受けてる品物、もう少し納期を伸ばしてもらえないかなー?」
「えっ、どの品物のことですか?」
「ほら、おとといあんたが来てくれて、寸法が分からないところを教えてくれた・・・・・・あれ」
「えっ、でも、それって、社長、あの時、間に合うって、おっしゃったじゃないですか?」
「うん、そうなんだ。あのときは、確かにそう思ったんだけど、以外に手こずってね・・・・・・。もう、二、三日、伸ばしてもらえないかな?」
「でも、私もお客様に納期を伝えてしまったんです。社長が出来るとおっしゃったので、その後、お客様に、言ってしまいましたよ・・・・・・」
「うーん、そこをなんとか・・・・・・」
「・・・・・・」
「ちょっと、杉崎さん、代ろうか?」
部長が、口を挟んだ。
夏海は、困った顔で受話器の口を塞ぎながら、
「・・・・・・また、ですよ。」
と小声で言った。
部長は片手を挙げて、電話を代った。
「代りました、小田代です・・・・・・。ええ、どうも、社長、何かあったんですか?・・・・・・ええ、なるほど・・・・・・。ええ・・・・・・それにしても、暑いですねぇ。・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・しばらくして、受話器を置くと、
「客先は、GTテックさんだね?」
「はい。そうです。」
「担当は、下柳部長?」
「いえ、課長の・・・・・・」
「ああ、そうか、最近は部長も仕事は部下に任せてゴルフばっかりかな?ふふふ」
「あの・・・・・・」
「いや、久しぶりだから、下柳さんと話、してみるよ。ちょっと待っててくれ、ついでにコーヒー飲みたいし・・・・・・」
と、営業室を出て行ってしまった。(つづく)
----------------------------------------------------------------------
株式会社イシイエンジニアリング
神奈川県横浜市都筑区川向町922-27
電話番号 : 045-594-7255
FAX番号 : 045-594-7256
----------------------------------------------------------------------

