第二十一話 「解せない午後」(その三)
2026/08/18
その日の夜、夏海と菊池、それと山本は居酒屋「我が家」で飲んでいた。
「やってられないですよ。私が悪いみたいに。部長、おかしいんじゃないんですか?」
「まあまあ、まあまあ杉崎君、そう怒らないで」
山本は酒を注いだ。
「すみません、関係ない山本さんに気を遣わせてしまって。」
「いや、いいんだよ。毎日毎日変わりないからね。いろんな人の話を聞くのも悪いことじゃないんだ、これがまた、うん。」
「そうですか、それならいいんですが・・・・・・。」
「大丈夫、大丈夫。それで、杉崎君はどう思うの?」
「それでって、だから納期を守らない上杉さんには、納得できないってことです」
「納得できないから、どうしたいの?」
「どうしたい?って」
「いや、例えば、何らかの形で改善を促すみたいなこと」
山本は笑いながら喋っているが、なんだか目は笑っていないように見える。少し酔ってきた夏海は、目の前のウーロンハイをグッと飲んでこたえた。
「そうですね、まあ、例えば、たとえばですね、わざと納期を早めに言って、上杉さんがが少し遅れても大丈夫な設定にするとか・・・・・・ちょっと考えました。」
「なるほど・・・・・・。誰でも思いつきそうな案だね。浅はか・・・・・・そう言わざるをえんなー。」
グラスを口に当てたまま、山本はニヤニヤ笑っている。
「えー、なんでですか?」
「なんで?杉崎君は、自分で考えたりするの苦手ですか?」
「はぁ?」
(不味い、・・・・・・非常に、マズい。これは、酔った時の山本さんのペースだ。まずいなぁ)
菊池は恐れていた方向に話が進んでいることを、どう止めようか考え始めた。
(今日は、女子社員の杉崎さんが一緒だから大丈夫かと思ったが、うかつだった・・・・・・。杉崎の奴、やけに熱血だからな・・・・・・、まずい)
「杉崎君、君の意見には二つ穴がある。まあ、欠点だな。分かるか?それが何か?」
「・・・・・・。」
「考えてみたまえ。少しは、自分で。なぁ!」
山本のピッチはいつになく早い。気分が良い証拠だ。
「二つですか?」
「ああ、そうだ。」
「・・・・・・。」
「ひとつは、もしも納期がそもそも無い時だ。これは、どうしようもないだろう。そういう時だ。そして、もうひとつは、」
「もうひとつは、上杉さんが断った時ですね。」
「・・・・・・。」
「違いますか?」
「違うねぇ。・・・・・・もうひとつは、上杉さんが君の噓に気が付いた時だよ。」
「噓って、ウソではないですよね」
「まあ、ウソは言い過ぎかもしれない。でも、上杉さんくらい、長年仕事なさってきた方に、杉崎君程度のキャリアの言葉が通じますかね?逆に通じると思う?」
「・・・・・・、まあ、思わないです。」
「思わないよね。なのに、それ、やるの?」
「・・・・・・。」
「まあまあ、山本さん、杉崎さんも、悩んで相談してるんですよ。そう頭ごなしにたたみかけられても、言葉が出ませんよ。」
たまりかねて、菊池が山本のグラスに焼酎を注ぎながら口を挟んだ。
「じゃあ、菊池君なら、どうする?」
「ぼくですか?僕なら、お客さんを説得しますね。」
「お客さんに?」
「ええ、だって無理なものは無理でしょ」
「お客に言うの?・・・・・・、時代かねー?」
「時代っすよ。」
「いや、時代で済ませて良いの?それ?」
山本はぐいッと飲んで、
「菊池君の考えは、杉崎君のよりも良くないと思うよ」
そこに大将が、焼きたててで、湯気が出ているほっけを持って来た。
「今日は、初めて来る新人さんにサービスだ。たくさん食べてってくれよ。おう、どうした、山ちゃん?真面目ぶって。似合わないねー」
「やめてよ、大将。今、後輩に仕事について語ってるとこなんだから」
「ええっ、山ちゃんが、仕事について、カタル?何を?よしな、似合わねーことは!」
「ええッ?」
若い二人も、吹き出した。
「良い話してたのになぁ・・・・・・。君たち、続き聞きたい?」
菊池と夏海は、笑いを止められないまま、首だけを横に振った。
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