第二十二話 「せんそうたいけん」(その1)
2026/08/26
「それにしても、おかしいですよ」
宮内は、いつにも増して声を荒げて、社長の雅也に食ってかかった。
「・・・・・・」
「いくらなんでも、今までこんなことなかったですから」
「・・・・・・まあ、そうですね」
「社長からも、何か言ってくださいよ」
イライラした態度を隠そうともしない。
「ええ、まあ・・・・・・、確かめてみましょう・・・・・・先方に」
さっきから感情的に社長を責めている宮内は、先代に信頼された中堅社員である。社歴も長い。社長の石川雅也は、先代である父親から家業を継いで、まだ二年の若手社長だ。
「お願いしますよ」
吐き捨てるように言って、その場を後にした宮内だが、現場の職人にも
「まったく煮え切らないよ、うちのボスはッ!」
と雅也にも聞こえるような大きな声で、これ見よがしに言いながら工場を出ていった。
(宮内め、めんどうな男だ)
雅也は、しかし、今回の問題について看過できないことは、十分に分かってもいた。
(いったん整理しよう)
大きく息を吐いて大きな社長椅子に寄りかかった。
(まず、うちのメインの客先パームさんから、プールフィールドシューターの仕事が止まったのは、昨年末くらい。)
宮内がしきりに問題にしていた客と品物について、不要になった図面の裏側のメモ用紙に書き始めた。
(父さんが社長をやっていたころのメインの仕事の一つ、それは間違いない。この仕事はどんなに期間が空いてもせいぜい三ヶ月・・・・・・。多い時の受注は、月に300ロットはこなしている。今は七月なので、約八ヶ月受注がないことになる。)
パソコンの画面に乗り出しながら、もう一度納品書と請求書を見ながら確認する。
(・・・・・・パームの他の仕事に関しては、・・・・・・プールフィールドを抜いて売上の比較をすると、だいたい前年もその前々年ともあまり変わらない・・・・・・)
客先パームは、商社である。商社と言えば聞こえが良いが要はブローカー、ピンハネで生計を立てている。
(特に今の担当がたちが悪い。名前は・・・・・・、そうだ、渋谷だ。
ちょっと何を考えてるか分かりにくい印象の男だった。パームは、宮内が担当で任せきりだったから、渋谷には二度ほどしか会っていない。)
紙に「渋谷」と書いた。パームの社長とは、あったこともない。宮内もあまり会社にいる人じゃないと言っていた。ただ、
「自分もパームの社長、苦手なんですよ。いわゆる昭和の社長っていうか・・・・・・。エネルギッシュで、飲んで仕事を取ってくるタイプ、そんな話を聞いたことがあるし、実際そんな雰囲気の人ですね。」
以前に宮内が、そんな話をしていたのを思い出した。
(うちのような小口に社長が関わっているとは、考えにくい。仮に関わっていたとしても、話し合いを提案しても応じて来ないだろう・・・・・・)
雅也は、見たこともないパームの社長を何となく想像してみると、その向こうに渋谷のズルそうな顔が思い浮かんだ。
(・・・・・・やはり、今回は、僕が、渋谷氏と話をしなければならないな・・・・・・)
雅也は、より深く椅子に沈み込みながら、天井を見上げた。(つづく)
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