第二十二話 「せんそうたいけん」(その2)
2026/08/27
雅也が自分の考えを宮内に伝えると、珍しく黙って聞いた後、ゆっくりとうなずいた。
「では、私がパームさんと打ち合わせの日時を決めますので、二人で伺いましょう」
「お願いします。パームさんは、やはり渋谷さんが出て来てくれるんですかね?」
「まあ、そうだと思います。うちの担当として長年やってくれてますから。それと、業務の当山さんも来ると思います。」
当山というのは、注文書の発行など、事務手続きを細かくやってくれる窓口の女性のことである。
「前向きな話が出来るといいですね。」
「ええ、まあ、こちらは社長が出るんですから、その辺は期待していいと思いますよ。」
「そうですか。宮内さん、じゃあよろしくお願いしますね」
「はい、任せてください」
宮内は、ご機嫌だった。
どちらかというと、現場作業ばかりに力を入れて、お客さんは自分たち各担当者任せな社長が、自分から動いてくれるなんて、はじめてのことである。
(社長もだいぶ意識が変わってきたかな。)
そう思うと、我知らず歌でも歌いたくなるような明るい気分になった。有限会社石川精密加工は、従業員総勢十名の零細企業だが、今でも先代を慕っている従業員は多い。
(何としても、雅也さんには、先代を超える社長になってもらわないと困る!)
そんな自分の気持ちは全従業員を代弁するものだと、宮内は思っている。
(多かれ少なかれ、みんな先代に恩があるんだ。職人肌の先輩たちに期待するより、まずは俺が見本を見せないといかんな。)
宮内は若い頃、決まった仕事を見つけられないままうだうだ過ごすうちに、子供が出来てしまい、途方に暮れていたところ、石川精密加工に友人の紹介で入った。入社後少し経つと、仕事が面白い!そう感じるようになった。なぜそうなったのか?理屈はいくらでも付けられたが、宮内は先代の石川社長を深く尊敬していた。それが理由ではないか、今でも迷わずそう思っている。
「宮内君、雅也を頼むよ」
いつだったか、先代にそう言われたことがあった。
「はい、僕に出来ることならなんでも」
そう答えたものの、その時は先代の意図がはっきりとは分かりかねた。
(最後は、雅也さん自身の問題なんですよ)
いつも、宮内は心の中で、雅也に語りかけけいる。先代の願いにどう答えればいいのか、今も自問自答するのだ・・・・・・。
約束の日、雅也は宮内と共に、パームに赴いた。前に一度来たきりである。
「少々お待ちください。」
事務員の女性に応接間に通された。
雅也は、改めて持参した資料を見直しながら、どう話せばいいか反芻していたが、お客はなかなか現れない。
「ずいぶん遅いですね。」
「ええ、時間は伝えておいたはずですが。」
五分もすると、宮内は持ち前の短気が性格が顔を出してきた。
しばらくして、事務員の当山が現れた。
「こんにちは、遅くなってしまい、申し訳ありません。」
小走りで、向かって来たせいか汗をかいている。当山は、小太りで、愛想の良さそうな人で、三十半ばくらいに見えた。
「いえ、こちらこそ、今日はお時間を作っていただきありがとうございます。」
宮内は、応対しながら、見回して
「あの、渋谷さんは?」
「渋谷は本日営業に出てしまって、社内におりません。」
「えっ、そうなんですか。」
「はい、内容はわたしが申し使っておりますので、お伺いいたします。」
「はぁ、そうですか・・・・・・」
宮内は、事務用の椅子に背を預けて、ため息をついた。(つづく)
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