第二十四話 「ボブディランを聴きながら」(その2)
2026/09/06
あっという間に平らげた安弘は、満足気に椅子に寄りかかった。
「おい、安弘、喫茶店の椅子は、丈夫に出来ているが、デザインにもこだわっている(見ればわかると思いたいが)それは、どこの喫茶店も、同じだ。店主のこだわりが詰まっているんだ。分かるか?」
「分かるよ。」
「いや、分かってない。お前みたいな体の大きい人間が、無造作に寄りかかったら、壊れちゃうだろ。」
「あっ、なるほど。」
「なるほどって・・・・・・、何事も考えないとな。分かるか?」
「分かるよ。」
(いや、分かってないな)
こりゃ、まず親からしつけないといかんかー、とマスターは思いながら、落ち着きのない安弘を眺めた。
「食ったら、帰りなさい。お母さんも心配してるぞ」
「してないよ。マスターのところに行くって、言って来たから。」
「お前、お母さんと喧嘩して出てきたんじゃないのか?」
「そうだよ」
「ほう?」
(今どきの若いやつ、という言葉は俺は嫌いだが・・・・・・、こりゃ、さすがに、だな。)
マスターは、苦笑いをしながら、安弘にコーヒーを入れた。
「飲んだら、帰れよ」
すると、安弘はやけに真面目な顔をしてコーヒーを一口飲むと
「ちょっとマスター、聞いてもらえるかな?」
「どうした?真面目な顔をして?やけに似合わないなぁ」
「茶化さないでよ、マスター!」
「いや、茶化してるわけじゃないが」
「今日さ・・・・・・」
と、安弘が話したことが、マスターにとってやけに胸に刺さる話だった。
「少し前のことなんだけど・・・・・・」
安弘は、似合わない神妙な顔で話し出した。
・・・・・・三ヶ月ほど前のある日、いつものように学校に行った。
掃除当番だったので、終礼の後ほうきで掃き掃除をしていた。すると、仲の良い友人渡辺がちょっかいを出してきた。
「おい、やめろよ」
始めは、笑いながらほうきで突きかえしたりして、ふざけていた。
いつもなら渡辺と全力でふざけるのだが、この時は渡辺をたしなめるような気持ちもあった。
「おい、ホントにやめろよ」
程度のことは言ったような気がする。
・・・・・・たぶんワザとではないと思うが、渡辺の振ったほうきがかなり激しく安弘の脳天に当たった。
目から火花が飛ぶと言うが、本当なんだ、と瞬間そんなことを思った。
「おい、安弘、お前ホントにアホやな。大丈夫か?」
「マスター、話の腰を折らないでよ」
「なんか、くだらなくてな、お前の話」
「・・・・・・うーん」
安弘は、コーヒーを口に含むと苦そうな顔をして、話を続けた。(つづく)
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