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第二十四話 「ボブディランを聴きながら」(その5)

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第二十四話 「ボブディランを聴きながら」(その5)

第二十四話 「ボブディランを聴きながら」(その5)

2026/09/06

 クラスの連中の誤解が解けるのは早かった。

翌日、みんなの前で謝罪し、高森先生が説明すると、ざわざわした雰囲気が噓のように消えた・・・・・・。

もちろん、渡辺にも個人的に謝った。

「いや、悪いのは俺の方だよ。お前は嫌がってたのは、分かってたんだ。」

詫びた安弘に、むしろ渡辺の方が余計に謝って来た。

「でも、やりすぎちゃったしね。ごめん」

「ああ、それにしても、お前の力、すごいな。俺はあの時、すぐに謝ろうとしたけど、お前のパンチがあまりにもすごくて、声が出なくなっちまった。その後、胸ぐら掴まれて、あれだろ、ヤバいって思ったよ。」

「すまん。訳が分からなくなっちゃって。それにしても、オレが嫌がってるのを分かってたのに、何で続けたんだ?」

「・・・・・・。」

「お前がしつこくするのが、おかしいって思ったんだよ。あの時、そういえば。何で?」

「・・・・・・もう、いいよ。悪かったよ。ごめん。もう、しないよ。」

「・・・・・・いや、まあ、オレも悪いし、でもそういう意味じゃ・・・・・・」

「それより、月山、大丈夫かな?」

渡辺は遮って言った。

それは安弘も一番気にしていることだった。特に高森先生が最後にした、あざの話・・・・・・。そのことが気になって、ずっと頭から離れずに残っている。

 

 ・・・・・・それから、二週間くらいが過ぎた頃、やっと月山が登校して来た。

内心ほっとしたのと同時に、月山の右頬に黒いシミが少し残っていることに気がついた。月山が休んでいる間、ずっと気になっていたことが、現実として目で見たことで、あの件がまだ終わっていないと突き付けられたような気持ちになった。

高森先生には、何度も月山にも謝りたいと伝えた。そして、大丈夫かどうか教えてくれ、と頼んだ。その度に高森先生は、今先生の方で連絡とってるから少し待ちなさい、と短く諭してきた。月山さんは、怒ってないから、とりあえず気にしないでいいから、とも言った。

 その日、すぐに月山さんに謝りたい、と思っていたがなかなか話すタイミングがつかめず、放課後になってしまった。

ほんの一瞬、月山さんの側から、人が居なくなった時、安弘は勇気を出して近づいた。

「月山さん、この前は・・・・・・、ごめん」

「安弘くん、私こそ、決めつけて、ごめんね」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「悪かったのは、ぼく、です。だけど、月山さんの時は、ほんとにわざとじゃないんだ。あの時は、ちょっとパニックになって、・・・・・・でも、ごめん。」

「でも、渡辺君には分かってやったんでしょ」

「そうだけど、渡辺の時もカッとなって、訳が分からなくなって・・・・・・」

「人を傷つけて、そんな言い訳は、ダメよ」

「・・・・・・」

「でも、私のは、偶然だし、安弘くんは、人を傷付けて喜ぶような人じゃないでしょ」

「うん。そうだよ。でも、顔のあざ・・・・・・」

「大丈夫。きっと消えるって、お医者さんが言っていたわ」

「・・・・・・」

安弘が言葉を探しているうちに、月山さんは誰かに呼ぶ声に応えて

「じゃあ、私は、気にしてないから、安弘くんも元気だして」

何かとても大事なことを伝えたかったが、言葉にできない、そんな気持ちが安弘の中にしこりのように残った・・・・・・。

 

「で、その後、何か話したの?その月山さんと」

マスターは、すこしにやにや笑った。

「いや、それが・・・・・・、今日急に、高森先生がみんなの前で言ったんだけど・・・・・・、月山さん、お父さんの都合で転勤になったんだって。」

今まで、流れていたのにぜんぜん耳に入って来なかったボブディランの曲が、遠くに響くように聞こえだした。

「最近、休みが何回か続いて、月山さん、元気ないな、って思ってたんだけど。」

「あれ、安弘お前、泣いてんのか?」

「だって、ちゃんと謝ってないし。あざが残っちゃったら・・・・・・」

「安弘、月山さんのこと、みんなから嫌われてるって言ってなかったっけ?」

「それはみんなだろ。僕が、って言ってないじゃん」

「ああ、なるほど・・・・・・」

マスターは、安弘の話を聞きながら、ずっと昔の自分の思い出と重ねていた。うずもれた記憶・・・・・・まさかこんな形で蘇ってくるとは、という記憶・・・・・・。

ボブディランの「くよくよするな」が静かに聞こえる。

「・・・・・・しかし安弘」

「なに?」

「お前、おふくろと喧嘩したって、オレにウソついたな」

「だって、仕方ないじゃん。」

氷のなくなった水を一気に飲み干す安弘を見ながら、マスターは思った。

Don’t Think Twice, It’s All Right・・・・・・くよくよするなよ、か?

・・・・・・簡単じゃ、ないよな)

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