第三話 「直そうとして」
2026/07/13
今日もいつもと同じ時間に目が覚めた。
「習慣って、不思議だな。」
工場へ向かう朝は、いつも早い。
目覚まし時計より先に目が覚める習慣が、四十年間という歳月の中で身についていた。
(・・・・・・退職して半年か)
私は、苦笑いして、起ちあがった。
。
居間に行くと、孫が遊びに来た時に置いていった、小さな建物が目に入った。
「じいじ、見て!」
あの日、誇らしそうに持ってきた顔を思い出す。
少し曲がっている。
屋根も傾いている。
職業柄か、気になる。
でも、なぜだろう。
仕事では、これまで数え切れないほど作ってきた金属製品。私は孫が作ったものを、我知らず眺めている自分に、気が付いていた。。
(仕事、辞めたせいか?)
昔は、精度ばかり気にしていた。
0.1ミリ、0.05ミリ・・・・・・、重要だった、当時は。
ほんのわずかなことに神経を使った。
そこに仕事に誇りを感じていたのだと思う。
でも今になって、
(私は、製品だけを作っていたのだろうか。)
変なことを考えることがたまに、ある。
仲間たちと悩んだ日。
失敗して落ち込んだ若い社員を励ました日。
間に合わず、みんなで果てしなく残業した日。
「ありがとう。」
お客様に感謝され、こんなにうれしいものか、という感じた日。
・・・・・・振り返ると、思い出すのは図面ではなく、人の顔ばかりだった。
ついぼっとなった。
孫の建物が、また目に入ってきた。
「ここ、まっすぐじゃないな。」
曲がっている屋根に手を出しかけて、やめた。
この曲がり方は、この子しか作れない。
完璧じゃない。
だけど、世界に一つしかない。
私は、もう一度そっと棚へ戻した。
「じいじ!」
夕方、孫から電話がかかってきた。
「今度はね、お城を作る!」
電話の向こうで弾む声が聞こえる。
私は窓の外を見ながら、小さく答えた。
「楽しみだな。」
電話を切った後、私はもう一度、棚の上の建物を見た。
曲がった屋根が、少し誇らしそうに見えた。
----------------------------------------------------------------------
株式会社イシイエンジニアリング
神奈川県横浜市都筑区川向町922-27
電話番号 : 045-594-7255
FAX番号 : 045-594-7256
----------------------------------------------------------------------

