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第五話 「小さな古い椅子」

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第五話 「小さな古い椅子」

第五話 「小さな古い椅子」

2026/07/14

「・・・・・・どうした?何か用か?ジロジロ見られるのは好かん。」

自分でも露骨に嫌な表情になるのが分かった。

「見ての通り、ワシは、椅子じゃ。

この工場に来てから、四十年は経つ。

座り心地は、よくないぞ。なにせ四十以上は経っているからな。

馬鹿にするでないぞ!

ここに来た当初は、そりゃあ良かった。

良かったさ。

ワシの座り心地も、会社も。

えっ?何?今の方が会社の状態は良い?

何を言っておるっ!

そういうことを言っているのではない。

お前は、どうせ、昔より売り上げだの待遇が良い、とかそんな話じゃろう。

分かった、分かった、まあ待て。落ち着けっ!

言いたいことは分かる。確かに、良くなっておる。

素直な子も増えた。いい会社になった。いや、なったというのは、ワシからしたら、違う。

いい会社なんじゃ、そもそも。

そうとも。ずーと、見てきたワシが言うんじゃ、うん。いい会社じゃ。

だが、ワシは、心配しているんじゃ、この会社をっ!

どうした?んっ、意外?

そうか、そう見らてるのか?・・・・・・ふん、何だか寂しいのぉ。

椅子じゃからな、無関心にみえるんじゃろう、この節穴めっ!

ワシが心配なのは、ハートじゃよ、ハート。こ・こ・ろ。

仕事には、絶対に必要じゃな。ワシに言わせれば。

機械も増えた、売り上げも増えた、ちょとやそっとじゃびくともしない会社になった、・・・・・・かもしれん。

たしかに、昔は、ちょっとしたことで会社の行く末が不安になってた時期もあった。

会長夫人なんて、良くオロオロしていたよ。

会長も、当時は社長だったが、口にも態度にも出さなんだが、もうだめか・・・・・・と何度も考えていたよ。なんで分かるかって?

ワシに座って、落ち着かなく、何本もタバコを吸ってなぁ~。社長の気持ちは、まさに手に取るように感じたもんじゃよ。

あんなことも、思えば遥か昔のことか・・・・・・。昨日のようじゃが、な。

・・・・・・毎朝、ワシに座ってコーヒーを飲んでる男は、ワシより少し後に来たんだが、入った当時は良く泣いてたもんだ。他の連中は気がつかなかったみたいだが、ワシは見ていたよ。仕事が上手く出来なくて、悔しかったんだろうな。一人で残っては、いつまでも仕事していたのを覚えておる。

やがて、上手くなったようだ。だから、若い時だけじゃったな、泣いてるのを見たのは。」

ワシは、工場を眺めた。この位置からだと、全体が良く見える。

社長たちがまだ若く、活気の中で働いている様子が浮かび上がった。

ワシは、続けた。

「・・・・・・ワシは覚えておらんが、ワシを作ってくれた職人は、きっと、心を込めてワシを作ってくれたに違いない。吹き込んでくれたんだな、命を・・・・・・。

たぶん、その職人の心が、ワシの中に生きとるんじゃ。だから、あたたかいこの会社が好きなのかもしれん。

えっ、人間にみたいだって?

ものにも心があるんじゃよ。

そんなことも知らないのかね?」

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