第六話 「小さな火花」
2026/07/15
「今日はもう、終わりだぞ。」
後ろから工場長に言われた。
「はい。」
返事をしながら、今、溶接中だから、と心で呟いている。
(もう時間か)
もう少しやっていきたいが、最近は暇なせいかあまり残業をさせてくれない。
・・・・・・更衣室に入ると、さっきまできゃっきゃと話していた若い女子社員たちが静かになった。
「お疲れ様です。」
彼らは口々に言う。着替えていると、社長の娘である若菜が入ってきた。
「お疲れ、つばき」
「おつかれさま」
「久しぶりじゃない?あんた、元気なの?」
「ええ」
若菜とは同期だ。それゆえ、ふつう感じる経営陣たちへの壁みたいなものが、二人の間にはない。
外に出ると、少し秋めいてきた風が気持ちよく、さっきからの頭の中をグルグルしていた仕事への意識がだいぶ和らいだ。
若菜は少し笑いながら、
「仕事仕事ね、あんたは。そんなに、面白い?」
「えっ、ああ、うん、そうね。面白いかー、な。うん、面白い~、うーん」
「何言ってるの?意識ある?」
「あるわよ。」
若菜の顔を見て、そう言えば、ひさしぶりに若菜と一緒に帰ってるな、と思ってから、半笑いの若菜と一緒に吹き出した。
「ほんとに、あんた変わってるわね、」
「そう?若菜だって、人のこと言える?」
また、二人して笑った。
「社長があんたのこと褒めてたわよ。ずいぶん買ってるみたい、あんたのこと。」
「買いかぶりね。」
「でも、工場長も驚いてたわよ。あたしは溶接のことはよく分からないけど、この仕事が出来るのは、俺以外じゃつばきだけだって。そんなにすごいの、あんた?」
「そんなわけないでしょ。すごい人はたくさんいるわ。」
そんな話をしていると、また頭が仕事のことでいっぱいになって来るのを感じた。
振り払うように
「そう言えば、若菜、今度の日曜日とか、どこか出かけない?久しぶりに。横浜でランチとかどう?」
「日曜日・・・・・・ダメなのよ。例のお見合いで会ったおとこ。会う約束しちゃったのよ。」
「そう。じゃあ仕方ないわね。」
「他の女子誘ったら?あんた、人気あるわよ。女子社員に。ラブレターもらったり、してるんじゃないの?」
「い・ま・ど・き、ラブレター・・・・・・ないわ~」
下唇を出しておどけるつばきを見て、
(・・・・・・綺麗)
と若菜は思った。
元々は、自分と同じ事務員として入ったのに、いつの間にか現場で真っ黒になって働くのを好むようになったつばき・・・・・・。
このまま溶接の達人になったりしたら、・・・・・・結婚とかまだまだしなさそうだなぁ~。
つばきの横顔は、夕日に染まって鮮やかに赤かった。
「またね。つばき」
「また明日。」
つばきは笑って手を振った。
若菜は、その背中が角を曲がるまで見送っていた。
秋の風が少し冷たかった。
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