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第十五話 「銀さん」(その3)

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第十五話 「銀さん」(その3)

第十五話 「銀さん」(その3)

2026/08/02

 「佐々木君、ちょっといいか?」

山城副工場長に声をかけられて、見ていた図面から目を離すと、山城の後ろには主任の前橋もいる。

「どうかしましたか?」

「うむ、君が教育している加納君、最近大丈夫かね?」

山城は度の強いメガネを外して目をしばしばさせながら、言った。

「・・・・・・もしかして、半田さんのことですか?」

「そうなんだよ。ちょっと問題になっていてね。」

(そりゃそうだ。仕事時間中、勝手にタバコを吸って、挙句、新入社員までそれを真似し始めたとなれば、、会社が放置しておく訳がない)

「私も、先日、別の部署の人に指摘されまして、加納には、キツ目に注意をしておきました。」

「それは、いつかね?」

「先週の水曜日です。確か。加納がトイレ当番の時に、モップを持っていた時に捕まえて叱ったので、覚えてます。」

「私は、昨日、半田と加納がタバコを吸っている、と報告されたんだが。」

「えっ、・・・・・・ほ、ほんとうですか?」

「・・・・・・」

「あいつ・・・・・・」

佐々木は、つま先立ちして、加納を探した。

その時、今まで黙っていた主任の前橋が、口を開いた。

「佐々木さん。この件、ちゃんと対処しないと、結構大ごとになってしまいますよ。半田さんの素行は多少目をつぶっていた経営陣も、他を巻き込むとなると、ちょっと厄介になる可能性が。」

前橋は、ひょろっと背の高い華奢な男で、いつも穏やかな人柄である。

分かってます、という言葉を飲み込んで、

「はい。」

と答えた佐々木は、これはまずい、と事の重大さに青ざめる思いだった。

 

 佐々木は、その日、加納瞬を居酒屋に誘った。行きつけの店で、奥が個室になっている。

「えっ、佐々木先輩、おごってくれるんですか?」

と、瞬はホイホイついてきた。

「まあ、一杯やろう」

「ありがとうございます」

瞬は、うまそうにビールを飲んだ。昼間の暑さのせいで美味しい。

「今日は、ちょっと、話があって誘ったんだが、何のことか分かるか?」

瞬の様子を見ながら、佐々木は慎重に言った。

(もしかしたら、佐々木さんは、最近の俺の上達ぶりが他の新入社員より目立っているのから、そのことか?)

と瞬は思ったが、

「いえ、特に、思い当たりません」

と、ビールを更に飲むとグラスが空になった。それに注ごうとビール瓶を取り上げた時、

「半田さんとお前のことなんだが」

と佐々木が言った。

(しまった。バレてた。)

瞬は、ヤバいと思ったが、半田とタバコを吸いながら、すぐにバレるなと思った自分がいたことを思い出し、

「すみません、つい・・・・・・」

「この前注意したばかりなのに、なんで約束を破るんだ?」

「はい、すみません」

「・・・・・・理由があるなら、言って欲しいのだが。」

「・・・・・・、なんか、佐々木さんに注意されたから来れないって、銀さんに言えなかったんです」

「仕事中にサボったらいけない、と思ったからもう止めようと思う、と言えばいいんじゃないか?」

「はい、それも、思ったんですが、そうすると銀さんがサボっている、って言っているようなものなので。」

「半田さんは、サボってるんだよ。仕事中にタバコは禁止されているのに、吸っている。それを、サボってないと言えるのか?」

「・・・・・・」

 

・・・・・・それから、一時間ほど、佐々木は根気強く瞬の話を聞くうちに、ぼんやりと瞬の心の内が見えてきた。

要するに、瞬は半田と過ごす時間が、今会社に来ている時間の中で最も楽しいと感じる時間になっていて、半田のそのアウトローな言動に惹かれ、自分も半田のようになりたい、とぼんやりと思っている、そんなニュアンスだった。

だが、それは瞬自身もハッキリと自覚しておらず、その時その時の気分で、正しい判断が出来ていないようだった。

「ま、今までのことは、俺が上の人に話すから、これからはやらないように、な。」

「はい。」

「半田さんにも、ハッキリ言えるか?」

「・・・・・・大丈夫です。」

「もしかして、そんなこと言ったら半田さんに嫌われる、なんて思ってないよな?」

「そんな、思ってないです」

「そうか?それなら良いが、半田さんは、ちょっと変わった人だけど、そんなことでお前を悪く思ったりする人じゃないよ。」

「そう、ですか?」

「ああ、あの人は、かつてお客様に名指しされるほど、腕の立つ人だったらしい」

「らしいって、佐々木さんも知らないんですか?」

「ああ、俺が入るだいぶ前のことらしいよ。黒鉄の四天王の一人、って聞いたなぁ。」

「そうなんですか!じゃ、今は」

佐々木はビールをグッと一気に飲んで、

「今は・・・・・・」

佐々木の脳裏に、あの日の光景が一瞬フラッシュバックのように蘇った・・・・・・。

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