第十七話 「展望」
2026/08/04
第一工場の班長は、三人いる。杉谷はその内の一人で、一番若手だ。
(班長になってもう四期・・・・・・今期こそ、結果を出したい。メンバーの力もだいぶついて来た。焦りは禁物だが、そろそろ・・・・・・)
杉谷班メンバーは、五人。
(新人の横田君は、まあ良いとしよう。やる気もあるし、研究心もある。三年・・・・・・四年後に、期待・・・・・・だな。熟練のタケさんと根津さんは、安定している。最近根津さんが、少し落ちてきた気もするが、定年間近なのを考慮すれば当然か。・・・・・・問題は、中堅のつばきと佐野だな。確かに中堅の中では二人とも比較的若手だが、それを差し引いても、見劣りは、ある。佐野と同期の高橋君とは、かなり差がついている。つばきも、ポジションで比較するなら、他の班はエース級の連中たち・・・・・・、まだまだだな・・・・・・)
いつもと同じ悩みを反芻しているうちに、三時休憩終了のチャイムが鳴った。
(だからといって、諦めるわけにはいかない。この連中で、結果を出したい・・・・・・、このメンバーで!必ずあるはず、突破口が・・・・・・)
やはり、キーマンは、伸びしろのある二人だ、と思いながら、
(・・・・・・俺も頑張らなくちゃ)
いつの間にか自分の仕事に没頭していった。
この春入社の女子社員は三人いるが、一人は営業部で、二人は業務部に配属された。最初の二週間ほどは、三人一緒に研修を受けていたが、それぞれ配属されると営業の杉崎夏海は完全に別行動になった。
「そういえば、最近杉崎さんに会った?」
「会ってないわね~。元気かしら。この前、おとといかな?なんか慌てて走ってたわ。遠くから見たんだけど、あれは、杉崎さんね。頑張ってるわね。」
「彼女に比べると、のんびりしてるわ、あたしたち。」
業務部配属の二人に、吞気だという自覚はあった。休日のこの日、二人は、駅に隣接して建つ高級ホテルのレストランでランチをとっていた。
「なんか、会社に入ったらつまらないかな、と思ってたけどユーミンに会えて良かったわ。」
長身の方の娘がユーミンと呼んだ娘の本名は、夢美。
「あたしも、深雪(みゆき)に会えて良かった。高校の時より、楽しいわ」
「それは言い過ぎじゃない?」
「うーん、けっこう言い過ぎじゃないかも」
「・・・・・・ウソ?」
雲一つない真夏の空と照りつける日差しを冷房のバッチリ効いたレストランから眺めながら、うだうだと時間が流れた。
「・・・・・・それにしても、やっぱり、杉谷先輩は、カッコイイわ」
深雪が、言った。
「あら、深雪、杉谷派?」
「派・・・・・・じゃないけど、男らしいじゃない?」
「うーん、そうね。あたしは高橋先輩かなー」
「分かる。ユーミン、ああいうちょっと頼りなさそうな草食系、好きそう。」
「あーあ、分かってないわね。高橋先輩の男らしさ、そこ、気がつかない?」
「どこが?」
「何が?」
「だから、高橋先輩の、どこが男らしいのよ?高橋先輩って、高橋真司先輩のことでしょ?」
「他に、どこに高橋先輩、いるのよ?」
「分かんないけど、営業とかにいるのかと思って。マッチョなオジサン、高橋さんが。」
「深雪は、杉谷先輩みたいな感じが男らしいんでしょ」
「・・・・・・」
「あたしは見る場所が違うの」
「・・・・・・へー」
「なによ」
「・・・・・・で、けっきょく、ユーミンは高橋先輩ともう少し懇意になりたい感じ?」
「別に、そんなこと・・・・・・ないけど、話はしてみたいかな~?」
「ふーん、どこがいいんだか・・・・・・。でも、まあ、ユーミンのためだ。一肌脱ぎましょう!この深雪姉さんがッ!」
「姉さんって、同い年じゃない。いいわよ、別に。頼んでないし」
「なに水くさいこと言ってんの?そうと決まれば、考えましょう!わたしなら見つかるわよ、いい考えが!」
高橋真司は、今日も電車を乗り過ごした。気が付いた時には、電車のドアは無情にも閉まっていた。
(また、やった・・・・・・。)
寝てたわけではない。考えごとをしていた。
考え事は、仕事中も、食事中も、朝起きてベットの中でも、いつも頭から離れなかった。
(これは、きっと面白い!)
ある時閃いた、頭の中の映像・・・・・・それがいつも真司の目の前に見えていた。
真司は、昔から工業地帯の夜景が好きだった。その光景を見ていると、そこで働く人たちの息づかいが聞こえて来るように感じた。
(・・・・・・きれいだなー)
幻想的に夜の闇に浮かぶような光景・・・・・・。
人間の世界と夢の世界の混じり合う空間・・・・・・。
人間の創造した美・・・・・・凝縮されているようだ・・・・・・
(いつか作りたい)
いつからか、工業地帯を何らかの形で表現したい・・・・・・それは、真司の夢になった。
・・・・・・そして、最近、
(もしかしたら、この方法なら、再現できるかも・・・・・・!)
一つの案が浮かんだ。
(こうなって、こう着くと、側面がこの役割になって・・・・・・、
うーん、ぶつかるかー・・・・・・
良い組み立て方法が、必ずあるはず・・・・・・
でも、・・・・・・気が早いけど、これだけは決まってるんだ。
・・・・・・この製品の名前は、)
真司は誰にも聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。
「パネモデル・・・・・・」
----------------------------------------------------------------------
株式会社イシイエンジニアリング
神奈川県横浜市都筑区川向町922-27
電話番号 : 045-594-7255
FAX番号 : 045-594-7256
----------------------------------------------------------------------

