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第二十二話 「せんそうたいけん」(その3)

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第二十二話 「せんそうたいけん」(その3)

第二十二話 「せんそうたいけん」(その3)

2026/08/28

 打ち合わせは、そう長くはかからなかった。二十分後には、雅也と宮内は帰りの車に乗っていた。

冷房はかけていたが、夏の日差しは容赦なく、小さな車内を焼くようだった。

帰りの道が半分くらいまで来た頃、やっと宮内が口を開いた。

「社長、今日は申し訳ありませんでした。せっかく来てもらったのに、何の収穫もなく」

宮内の口調は重たい。

「収穫、あったじゃないか。」

「・・・・・・」

「結局、プールフィールドシューターは他社に転注されていることが分かった・・・・・・。分かったという収穫があったじゃないか。」

「ええ、そうですね。残念ながら。」

「もしも、このことが分からないなら、うちは次の一手がなかなか打てないと思う。だから、嫌なことだけど知ることができたのは収穫・・・・・・僕は良かったと思っている」

「それにしても、私が再三に渡ってプールフィールドの発注について聞いたにもかかわらず、のらりくらりと言い訳ばかりしてお茶を濁していたのに、あっさり答えましたね。」宮内は、内ポケットから電子タバコを取り出した。

「社長、すいません」

「ああ、良いよ」

宮内は、煙を大きく吐き出しながら、

(やっぱり、社長は、会長の血を引いている。その魂をしっかり受け継いでいる)

宮内は、短かったが中身のある先ほどの客先でのやり取りを思い出した。

「・・・・・・ご担当者の渋谷さんがいらっしゃらなくて言いにくいとは思いますが、当山さん、単刀直入に御社のプールフィールドシューターですが、現在どのようになっておりますか?」

「・・・・・・どのようにと言うと?」

「弊社の不手際で、現在他社に行ってしまったというのは仕方ないとして、何が原因でそうなってしまったのか、について弊社としても勉強のためお教えいただきたい、と思ってます。弊社の不良の問題、品質に対しての意識・・・・・・など、社内で話し合う材料にしたいと思うからです。」

「・・・・・・そう、ですね。たしかに、プールフィールドシューターは、現在別の業者さんにお願いしてます。その理由は・・・・・・・・・・・・」

当山の話では、転注に至った経緯には、やはり直前に続いた不良が原因となっているとのことだった。その話の六割は本当だろう、と雅也は思った。そして、残りの四割には他の「理由」がある、と直感した。

社長が変わることによる客先の意識の変化、これは雅也がうすうす感じていたもので、たとえば何となく人としてフィーリングが合わない、といった些細なものがやがて大きな障害になっていったように感じていた。

「宮内さんには、嫌な思いをさせて申し訳なかったね。」

「なにを言ってるんですか。お客さんの意図を把握しきれなかった私の責任ですよ。申し訳ありません。謝るのは私の方です。」

「いや、それが、そうでもないのさ。」

「いや、今回の問題は誰が見ても、はっきりした話です。」

「僕が言いたいのはね、宮内さん、立場や状況で人はぜんぜん違うことを考える、ということなんです。あまり上手くない例えですが、昔僕が高校生の頃、部活で空手をやってました。」

「知ってますよ。もちろん」

雅也は、うなづいて、

「僕は、どちらかというといじめられていた方だから、自分を変えたくてね、それで空手部に入ったんです。想像以上にきつくて、すぐに嫌になったんだけど、すぐに辞めるのも悔しくてしばらくがんばったんです。」

宮内は、真っ直ぐ前を向きながら、雅也の話に耳を傾けている。

「キツイ思い出を話せば切りがないけど、一番覚えてるのが、夏の合宿の稽古です。汗びっしょりで、息も絶え絶え、そしてなにより喉が搔きむしられるように渇いて仕方なかった。一年生は稽古の前に床掃除をするんだけど、あの汚い水、床を拭いた雑巾を絞った水をさっき捨てないで体育館を出てすぐの所においてあったな。僕は、激しい稽古の間中、その汚い雑巾を絞った水のことばかりを考えていたんだ。」

「それで、飲んだんですか?」

「飲まないよ。やばいでしょ、飲んだら。だけど、場合によっては日常では考えられないことを人間はしてしまう、そのことが分かった。それも、ほんの些細なことで、それはお起きうるんだ。」

「社長、ほんとに、あまり良い例えじゃないですね。」

「すまない。たとえは悪いけど、ニュアンスは伝わったでしょ。」

宮内は、吹き出した。(つづく)

 

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