第十話 「工場の社食から」
2026/07/21
「この会社で、一番長くいる人って誰なんですか?」
ある昼休み、加納瞬は、社食で隣りにいた工場長に話しかけた。
「そんなこと聞いてどうする?」
工場長は素っ気ない。食べながら話すのが嫌いなのだ。
「えっ、気になるじゃないすか、そういうこと。」
「しかし、食うの早いな、お前。普通、新人は早く飯食えって言われるもんだが、なぁ。」
と正面で生姜焼きを頬張っている杉谷に言った。
「ええ、そうですね。僕も最初は良く怒られましたよ。まだ、食ってんのかって。」
「なぁ、そうだろ。良かったな、新人。お前にも特技があって。」
「短所ばかりじゃない、ってことですよ。人間誰しも。」
杉谷は、食べながら付け加えた。
「だな!」
と、二人は笑った。それを聞いてた近くの連中も吹き出した。
その中の一人が、目の前に飛んだうどんを慌てて回収しながら、
「止めてくださいよ~。工場長!飯食べてる時に笑わすの。すいません、そっちの台拭き、取ってください・・・・・・」
・・・・・・ひとしきり盛り上がってガヤガヤしているうちに、皆食べ終わって席を立って行った。
気がつくと工場長もいない。
(おいおいおい、工場長さん、質問に答えてくれてないじゃん?)
と瞬は思ったが、誰もかれも急ぎ足で社食を出ていく。
(せっかちな人ばっかりだな・・・・・・。)
話好きの瞬は、また休み時間を持て余すなと思った・・・・・・。
社食を出て、歩きながら工場長は杉谷と話している。
「しかし、あの新人、すごいっすね。まだ新入社員のくせに工場長に普通に話しかけるなんて。第二工場の子じゃないですかね。」
「機械加工か?山城君のところだな?」
「だと思います・・・・・・。あの作業服についた油の感じ」
「ま、そうだな。」
「にしても、すごいわ、怖くないのかな?僕なんて二年以上かかりましたよ。工場長に作業報告に行く時でさえ、しばらく緊張してましたよ。」
「俺なんて、今でも緊張してるよ。」
古株のタケさんが横からちゃかした。
「いや~、ですよね。」
工場長を見ると、口元にうっすらえみを浮かべながら
「だけど、ほんとに・・・・・・、ちょっと変わってるな。」
と瞬のことを言った。
(ふーん、山城君のとこか。)
今度行って見るか、と思った。
「大物になるかもしれんぞ、案外、ああいうタイプは。」
昔、そう言えばあんなタイプの男がいたな、とある人物を思いながら工場長が言うと、
杉谷とタケさんは顔を見合わせて、
「そんなもんですかね?」
と首をかしげた。
「いろんなヤツが入って来る会社になったな、うちも。あんなに小さいこところで、始めたのになぁ・・・・・・。」
工場長の瞼に、自分がまだ十代で、先代の社長の下で修業した時代が、一瞬、浮かんだ・・・・・・。
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