第十一話 「お手柄の代償」
2026/07/23
人事担当の山本は帰りがけ、少し迷ってから、行きつけの飲み屋の暖簾をくぐった。
「らっしゃいっ!」
威勢のいい大将の声!
「大将、また来ちゃったよ。」
「おお、山ちゃん、お疲れさん。何言ってるの。毎日だって来ていいんだよ。なぁ」
「そうっス!山さん、遠慮することないっすよ。」
大将の声にスタッフの悟も、調子を合わせたて、笑った。
「先ずは、ビール。」
少しアルコールが腹に納まると、ほっとひと息ついた。
「しかし、山ちゃんは、いつもうまそうに飲むねぇ。入り口開けて、その横で飲んでてくれれば、黙っててもお客さん来ちゃうよ。」
「あっ、その役やるから、お代タダにしてよ。」
「なるほどー、そりゃウィンウィンだ。」
二人で笑って、
「じゃあ、これサービス。」
「・・・・・・。お通しじゃないの?コレ」
「バレたか!?」
大将も少しきこしめしているせいか、他のお客にはばかることを知らない。
「にしても、山さん、どうしたの?連日来るなんて、なんかあったんかい?」
「聞く?」
「おお、聞きたいねぇ。」
「ほんとに、聞いちゃう?」
「うーん、いや、じゃあ、いいや。」
「ちょっと、いや、話す、話しますよ。実はね、って改まる話でもないんだけど、今年の人事、好評なのよ。」
「そういえば、人事部だったけ、山ちゃん。」
「いや、人事部では、ない。(ぐっと飲んで)正確には、人事部がない。我が社には。」
「何の話?でも、前にも人事の仕事やってるとか、何とか言ってなかった?」
「大将!慌てすぎ、今、話そうとしてる。(飲んで)話してるのに、待ちきれないんだなぁ、近頃のオジサンは。ダメね、せっかちは。モテないよ」
「どの口が言ってるの?独身の山ちゃん。」
「(飲んで)・・・・・・ともかく、人事部はないけど、面接したりなど、人事の仕事は必要じゃない、会社には。前は、社長とか工場長とか、やってたわけ。それを。でも、ある時、白羽の矢が立ったんだな。やはり、見る目があるよ、偉い人は。違うよね、目の付け所が(飲んで)、あっ、大将お代わりね」
「まあ、社長が偉いのは分かったけど、何に白羽の矢を立てたんだい?」
「噓だろ、大将?!何聞いてるの?私だよ、わ・た・し。白羽の矢が立ったのは」
「えー、そりゃいけねぇや。」
横で聞いていた常連も吹き出して、
「山さん、自分で言っちゃ、値打ちがさがるぜ~。そういうことは、人に言ってもらうもんだ。」
と、みんなで、ひとしきり笑った。
山本は、すっかり気分を害してしまった。
「なんだよ!みんなして、人の話の腰を折って。そりゃないよ。」
「わるいわるい、山ちゃん、んで、どこまで話したっけ?」
また、爆笑している。
完全に連中にペースを握られてしまった。
いったいどこで、間違ってしまったのか?
ただ単に、今年の新入社員が出来の良いのが多く、辞めたりする者もいないため、最近良くいろんな人から、人事の手腕を褒められる。
「しかし山ちゃんの会社の社長さん、見る目だいじょーぶなのかな~」
店中が笑った。
山本はジョッキを持ったまま、
「……何でそうなるんだよ。」
と小さくつぶやいた。
宴は、始まったばかりだった。
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