第七話 「工場裏の満開の桜の下で」
2026/07/19
第七話 「工場裏の満開の桜の下で」
昼休みになると、工場の裏にある古いベンチへ行く。
高橋真司は、幼い頃から周りとコミニケションを取るのが苦手である。
話せたら良いのに、といつだって思うのだけど、上手く出来ない。
今なら、自分みたいな人間に病名を付けてかばってくれるのかも知れないが、自分が生きてきた環境では、自分も両親も人と同じように出来ないことで、ただオロオロしながら生きてきた。それは、少し滑稽に見えるほどであった。
しかし、神様は二物は与えないが、一物は与えてくれたようだ。
真司は黙って仕事をすることが、誰よりも抜きん出ていた。
ものづくりは天職!
仕事をしている時は、人の話が耳に入って来なかった。一緒に働く仲間たちもそのことを知っていて、誰も話しかけて来ない。
こうして昼休み、一人で弁当を広げていても、誰も来ない。
(休み時間なら、話せるのに・・・・・・)
どうも自分は誤解されやすい性格なのだ・・・・・・、そんな風に真司は思うようになった。
(もうすぐ咲きそうだ。)
工場裏の桜がピンク色になろうとしていた。
まだ咲いてない桜の木を見ながら、これから広がる光景を想像した。
・・・・・・ふと、話し声が近づいて来る。
「今度の休み、どこか行かない?」
「うん、行く。どこ行く?」
声は弾んだ若い女子社員のものだった。
(早く食べよ)
突然の来訪者に、真司は急に叩き起こされたような拒絶反応を感じて、慌てた。
二人組は、角から現れると真司がいるのを知っていたのか、話を続けながらとなりのベンチで食べはじめた。
「でも、なんか天気予報週末雨みたいよ」
片方が、スマホを見ながら言っている。
「この時期、雨が多いのよね~。せっかく桜が綺麗なのに」
(同~感)
と、こころで相槌を打った。しかし、
「君たち、新入社員?」
そんな言葉は声にならなかった。出来たら良いなと思うが、それは難行である。素人が、遥か高い山の登山に挑むようなもの。
(無理は良くないし、僕らしくないし)
と諦めて、残りのご飯を頬張ると
「あの・・・・・・先輩って……高橋先輩ですよね。」
と一人が声をかけてきた。
「えっ」
とちょっとむせ込んだ。
「あっ。はい・・・・・・」
「工場長が、先輩の溶接、すごいって。」
二人は、真司の方に身体を向けて続ける。
「工場長って、褒めたりしない人じゃないですか。あの工場長が、あんな風に言う人って・・・・・・?一度、話してみたいって言ってたんです。」
女子たちは興味シンシンである。
「・・・・・・。」
真司は、頭が火照り、顔が赤くなるが分かったので、
「ありがと、じゃ僕はこれで。」
これは、退散するしかない、と立ち上がると
「来週、みんなで夜お花見するんです。この場所で。もし良かったら先輩もきませんか?」
「人数、多い方が楽しいから、みんなに声をかけなさいって言われてるんです。」
「そうなんですよ。お願いします」
「……。」
「先輩?」
「あっ、うん。……行けたら。」
「待ってます!」
そう言って、真司の言葉にかぶせるように笑った。。
真司は、逃げるようにその場を去った。
後ろに女の子の明るい声を聞きながら、その向こうに、もう桜が満開の景色が見えた。
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