第九話 「分かれ道」(前編)
2026/07/17
「きびしい」
目覚まし時計の音を遠くに聞きながら、圭介は呟いた。
しばらく前から鳴っていたような気がしている。
昨夜、遅くまでネットゲームをしていたせいで、起きるのが辛い。
(我が社も早くフレックスタイムを導入しないと、俺みたいな優秀な社員を手放すことになるぞ!)
夜型の男は、理不尽に怒りながら、やっとのことで起き上がった。ッツ、腰も痛い。ずっと同じ姿勢で画面に向かっていたせいに違いない。
(これは、きびしい・・・・・・)
・・・・・・その後10分くらいベットで、寝たり起きたりしていたが、一階からの母親の怒声でようやく起ちあがった。
母親に逆らうことなど、彼の家では誰も、とうてい出来なかった・・・・・・。
会社に着くと、守衛がニヤニヤしながら自分を見ているのに気が付いた。
「おはようございます。」
早口に言って通り過ぎようとしたら、
「おはよう、調子悪そうだねぇ」
声も茶化すような感じがある。
「なんすか?止めてくださいよ、製造部のエースのやる気をそぐようなこと言うのは。」
「へー、最近じゃ、エースは高橋君って聞いてるけど」
「高橋って、あのコミュ障の若造?いやいやいやいや。」
「今、工場長一押しらしいよ。」
「まじスか?工場長も最近お疲れ気味かな?」
守衛は、なお笑いながら、肩をすくめた。
「大した自信だねぇ」
「エースは、僕っすよ。」
言いながら歩き出した圭介を見て、お前も若造だろう、と守衛は心で笑った。
仕事が始まり二時間程経った頃、工場長が圭介のところにコーヒーを持って、来た。
「おい佐野、どうだ?」
「どうしたんですか?工場長、ジキジキに。」
「なんだ、迷惑か?」
「大丈夫っす。四時前には終わりますよ。心配しなくても」
圭介は手を休めずに言った。
工場長は、離れたところから圭介が作る品物を見ながら、コーヒーを飲んだ。
「お前ものあるぞ」
「ありがとうございます。」
「今回はステンレスで作ってくれって言われて、変形すからな・・・・・・、難しいかと思ったが、綺麗に出来てるな」
定盤のへりに寄りかかりながら、工場長は言った。
「・・・・・・。」
「どうした?納得いってないのか?」
圭介は顔を上げて、
「工場長、やめてくださいよ。この程度。この間のV08型のボックスの方が、よほど大変でしたよ。叩けないんで、溶接に工夫が必要だったんで。」
「ああ、あれね。まあ、V08型は、いつも山瀬さんにお願いしてたからな。確かにあれは、よくできてた。そう言えば、また来てるぞ、あれ。」
「えっ、またっすか~」
「なんだ、嫌なのか?じゃあ、つばきに頼むか?」
工場長は、そう言ってヘリから腰を浮かせた。圭介は慌てて、
「いや、嫌じゃないっすよ。やりますよ。」
「・・・・・・、期待してるよ」
「OK、ボス!」
圭介はおどけて言った。
(何しに来たんだ、一体?)
と思いつつ、直ぐに作業に取り掛かった。(つづく)
----------------------------------------------------------------------
株式会社イシイエンジニアリング
神奈川県横浜市都筑区川向町922-27
電話番号 : 045-594-7255
FAX番号 : 045-594-7256
----------------------------------------------------------------------

