有限会社イシイエンジニアリング

第十四話 「問題の月曜日」

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第十四話 「問題の月曜日」

第十四話 「問題の月曜日」

2026/07/31

 黒鉄製作所の朝礼は、基本毎日行われる。月曜日だけは全体で、その他の日は、各部署それぞれに行う。

(話すことがないんだよなぁ、毎回毎回。)

最近の工場長のもっぱらの悩みの種だ。

火曜日からの第一工場の朝礼は、かなり前から課長の八潮に任せている。

(問題は・・・・・・、月曜日だ。)

日曜日の夕方ごろから、決まって憂うつになる。

 

 その日は、朝からやけに電話の多い日で、予定していた仕事が一向に進まなかった。

「工場長、珍しく、イライラしてますね。」

圭介は、水筒を手に先輩のつばきに話しかけた。

いつもは、フラフラ仕事に集中しない圭祐にムッとなるつばきだったが、

「ほんとね。誰かフォローしないのかしら?」

と被っている溶接の面を取って、周りを見回した。

そういえば朝礼で、八潮と杉谷は客先に打ち合わせにいくと言っていたが、もう出かけたようだ。

「俺、工場長を、手伝って来ようかな?」

すると、つばきはハッキリと分かる程顔色を変えて、

「ナニ言ってるの?佐野君。ますます、イライラするじゃない、そんなことしたらっ!いいから、しっかりやりなさい!自分の仕事をっ」

「えっ・・・・・・はあ」

(俺って、どうゆう目で見られてるんだ?何だよ、まったく・・・・・・)

なんかやる気なくなったな、と思いながら、圭介は、仕事に戻った。

 

 昼休みが近づいた頃、少々殺気立っている現場に、事務員の若菜が入って来た。

速足で歩きながら、手には書類を持っていた。つばきの横で立ち止まると、

「どう?調子?」

「いつも通りよ」

「なんか、ピリピリしてない?今日。」

「若菜・・・・・・あなた、すごいわね。」

「何言ってるの?時期、社長よ、あ・た・し。」

若菜は鼻で笑ってから、

「それにしても、相変わらず、すごいもの作ってるわね。こんな複雑なもの、あんた一人で作ったの?」

定盤の上に乗った鉄のオブジェのようなへんてこな形状の品物を見て、目を丸くした。

「そうね・・・・・・、もう慣れたわ」

「ふーん、大したものねぇ」

それを近くで、聞いていた圭介は、

(へー、ジキ、シャチョー、か~)

溶接の火花を弾けさせながら、思った。

 

・・・・・・図面とにらめっこしている工場長に話しかけるのは、若菜でも気後れする時がある。

小さく咳ばらいをして、

「おはようございます。」

少し離れたところから、声をかけた。

「おう、おはよう。どうした?若ちゃん。珍しいな。」

「どうしたんですか?工場長、何かピリピリしてませんか?」

「そうかぁ?ま、ちょっとバタバタしてなあ。・・・・・・。それで、何だ?」

「これなんですけど」

と、持っていた紙を、フォルダごと手渡しながら、

「さっき来たFAXなんですけど、手が空いた時に、読んでみてください。」

「ん?急いでるのか?」

「いえ、ぜんぜん。」

「そうか?待て、今、読むよ」

工場長は、チラッと時計を見た。十二時十五分前。

(もう、どうせ、午前中じゃ終わらんな)

と、やりかけの仕事に目をやってから、渡されたFAXを見た。

FAXは今時珍しく手書きで、丁寧に書いてあった。

内容は、こんなものだった。

「株式会社黒鉄製作所 皆様

先日は、急に問い合わせをさせていただいたにも関わらず、ご丁寧な対応をしていただき、感謝申し上げます。(中略)さっそく、使用しておりますが、とても調子が良く、幸せな趣味の時間を満喫しております。(中略)・・・・・・溶接をしてくださった、高橋さんに、感謝をお伝えいただきたく存じます。わたしのような者が生意気言うようで恐縮ですが、少しだけ関わらせていただきた黒鉄製作所という会社に、とても暖かい日本の工場の空気を感じました。(中略)作っていただいたものは、大切に使わせていただきます。皆様も、どうぞ、身体を大切に、そして素晴らしい会社がますます成長なさることを願っております。」

工場長は、読み終わると、二週間くらい前に来た、中年の細身の男性を思い出した。趣味の自転車に、何か箱のようなものを作って溶接してほしいという依頼だった。すぐに真司に白羽の矢を立てて、任せたが、溶接中も近くでじっと見ていたりして、やりにくそうにしていたのを思い出した。

「・・・・・・このFAXの主、知ってます?」

「ああ、思い出したよ」

「良かったです。何のFAXかしら?って、事務所でも分からなくて。それで、工場長に聞けば分かるんじゃないか、って。」

「ふむ・・・・・・」

「どうかしましたか?」

「いや、良い、話だな、と思ってな。」

「そうですね。」

「これは、使えるな・・・・・・」

「何にですか?」

若菜の問いに答えずに、工場長はもう、月曜日の朝礼ではなすネタができた!と少し気持ちが明るくなった・・・・・・。

 

 翌週の朝礼にて、勇んでFAXのネタを披露した工場長だったが、社員たちの反応は思いの外冷ややかだった。どうも、FAXの送り主の印象が、ことの外良くなかった!ようだ・・・・・・。

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